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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)6521号 判決 1988年4月22日

原告

ウインドサーフィン インターナショナル インコーポレーテッド

右代表者

ホイール シュバイツァー

原告

勝和機工株式会社

右代表者代表取締役

鈴木東英

右原告ら訴訟代理人弁護士

三宅正雄

安江邦治

右原告ら訴訟復代理人弁護士

串田誠一

被告

ユーボ株式会社

右代表者清算人

今野智昭

主文

一  被告は、原告ウインドサーフィン インターナショナル インコーポレーテッドに対し、金一八〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告勝和機工株式会社に対し、金五七〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告勝和機工株式会社のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は第一項及び第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

一原告らは、別紙一記載のとおり請求の趣旨及び請求の原因を述べた。

二被告は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

したがつて、原告らの請求は、後記三記載の主張自体失当と認められる部分を除いて、すべて理由がある。

三原告勝和機工は、被告がイ号物件を販売して本件特許権を侵害したことにより、原告製品の販売数量がイ号物件の販売数量と同数だけ減少し、したがつて原告製品販売による販売利益が右数量分だけ減少したことによる損害の賠償を請求していること並びに原告ウインドサーフィンは、原告勝和機工に対し、本件特許権の独占的実施権(すなわち専用実施権及び独占的通常実施権)設定の対価として原告製品の正味販売価格の六パーセントに相当する実施料の支払を請求する権利を有していることが原告らの主張自体から明らかであり、更に、原告ウインドサーフィン自らが、右実施料相当損害金の支払を被告に求めていることは記録上明らかである。したがつて、原告勝和機工は、原告製品を販売した場合であつても、これにより得た利益の中から、原告ウインドサーフィンに実施料を支払う義務があるから、この実施料相当額を控除した残余の額を自己の利益として取得することができるにすぎない。そうすると被告のイ号物件販売により原告勝和機工が被つた損害の額は、被告のイ号物件販売により減少した原告製品の販売利益から、原告ウインドサーフィンに支払うべき実施料相当額を控除した額であるというべきである。

ところで、原告勝和機工が、原告ウインドサーフィンとの不真正連帯債権として被告に損害賠償を求めている金一八〇万円は、原告勝和機工が原告ウインドサーフィンに支払うべき実施料に相当する金員の一部であることがその主張から明らかであるので、原告勝和機工の損害から控除されるべきである。したがつて、この点に関する原告勝和機工の主張はそれ自体失当であり、この部分についての同原告の請求は理由がない。

四以上の次第で、原告ウインドサーフィンの請求はその全部について、原告勝和機工の請求は、被告に対し金五七〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月一六日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を求める限度においてそれぞれ理由があるから、右限度において認容し、原告勝和機工のその余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条ただし書を仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官安倉孝弘 裁判官小林正 裁判官若林辰繁)

別紙一

請求の趣旨

一 被告は、原告ら各自に対し、金一八〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二 被告は、原告勝和機工株式会社に対し、金五七〇万円及びこれに対する昭和六二年一一月一六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三 訴訟費用は被告の負担とする。

四 仮執行宣言

請求の原因

一 原告ウインドサーフィン インターナショナル インコーポレーテッド(以下「原告ウインドサーフィン」という。)は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者であつた。

特許番号  第六三〇三五二号

発明の名称 風力推進装置

出願日 昭和四四年三月一一日

公告日 昭和四六年五月三一日

登録日 昭和四七年一月一一日

二 原告勝和機工株式会社(以下「原告勝和機工」という。)は、本件特許権に関し、次のとおりの実施権(以下、これらを一括して「独占的実施権」という。)を有していた。

1 昭和四九年八月二〇日から昭和五六年三月二七日まで

独占的通常実施権

2 昭和五六年三月二八日から昭和五九年八月二〇日まで

専用実施権

3 昭和五九年八月二一日から昭和六一年一月二七日まで

独占的通常実施権

4 昭和六一年一月二八日以降

専用実施権

三 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(ただし審決による訂正後のものであり、その内容は別紙訂正明細書記載のとおりである。)の特許請求の範囲は、次のとおりである。

「使用者を支持する本体装置である波乗り板と、推進力として風を受け入れる風力推進手段とを含み、該風力推進手段が、円柱と、該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互いに連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントとを備えることを特徴とする、風力推進手段。」

四1 本件発明は風力推進装置にかかるところ、これを構成要件に分説すると、次のとおりである。

(一) 使用者を支持する本体装置である波乗り板があること。

(二) 推進力として風を受け入れる風力推進手段があること。

(三) 前記風力推進手段は、

(1) 円柱と、

(2) 該円柱に長い端縁部で取付けられた帆と、

(3) 前記円柱の横方向に配置され、前記円柱及び帆を間に入れて互いに連結され且つ一端で前記円柱にまた他端で前記帆の帆耳にそれぞれ連結された一対のブームと、

(4) 該ブームをにぎる前記使用者が前記帆を前記波乗り板上で回転及び起伏させることができるように前記円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントと

を備えることを特徴としていること。

2(一) 本件発明の目的は、風に対する感応性と速度とを増大し且つ波乗り板の従来の乗心地と操縦性すなわち制御特性を増強して、それから得られる楽しみを増すようになつた風力推進装置を提供することにある。

(二) 本件発明は、前項の目的を達するために、前記四1(一)ないし(三)の構成要件からなる装置を提供しているのであるが、その結果、従来装置に比較し、次のようなすぐれた作用効果を得ている。

(1) 従来から、風力推進は大型帆船、ヨットばかりでなく、ボート、氷上ボート、そりなどのような任意の軽量な小型乗物の動力装置としても考えられてきたが、波乗り板に帆を設けることによつてこれを氷上ボートにかえ、また帆船しての機能を生ぜしめることができる。しかし、横ゆれに対する安定性に問題があつた。すなわち、突風や激風によつて乗物が転覆する危険性は極めて大であつた。そこで、本件発明は前記構成を採用することによりこの問題を解決した。すなわち、本件発明による装置にあつては、突風又は激風が襲つた場合、使用者は帆から手を放せば帆は風力により風下に倒れることにより、本体装置の転覆を免がれることができる。

(2) 更に、本件発明は前記構成をとることにより、単に、帆を操るだけで、操縦を容易に行うことができるという作用効果をもたらしている。すなわち、本件発明にかかる装置においては、使用者は、ブームを把持し、風向きに対し、帆の位置及び角度を調整するだけで、波乗り板を使用者の望む方向に進行させることができる。

(3) 本件発明の装置は、右のような単純な構成、簡易な操作性及び高度な安定性の点において、従来技術には見られなかつた特異性と優秀性をもつており、そのために、世界各国において、本件発明による装置を使用したボードセーリングが新しいスポーツとして広く普及し、遂に、一九八四年のロサンゼルスオリンピックの正式種目として認められるまでになつた。

五 被告は、昭和五八年七月ころから昭和六一年五月三一日に至るまで継続して、別紙物件目録記載の「風力推進装置」(セイリングボード。以下、「イ号物件」という。)を、業として、販売してきたが、イ号物件は、以下のとおり、本件発明の構成要件をすべて備え、かつ、その作用効果も本件発明のそれと同一である。

1 イ号物件は別紙物件目録添付のイ号物件説明書(以下、「イ号物件説明書」という。)二の1に記載したとおり、波乗り板である本体装置(ボード部)aを有し、同装置は同物件説明書三の2に記載したとおり、使用者を支持する働きを有しているので、「使用者を支持する本体装置である波乗り板があること。」という本件発明の構成要件(一)を備えている。

2 イ号物件は、イ号物件説明書二の2及び3に記載したとおり、マストcにその一辺を嵌装されたセイルb及びマストcの下端部が嵌合されたゴムとピンからなるジョイント(以下、「ゴムジョイント」という。)kがそれぞれ存在し、ゴムジョイントkの下端部は本体装置(ボード部)aに結合され、セイルbは、同説明書三の3に記載する作動態様(作用効果)を有するから、イ号物件は、「推進力として風を受け入れる風力推進手段があること。」という本件発明の構成要件(二)を備えている。

3 イ号物件は、イ号物件説明書二の3に記載したとおり、マストc、セイルb、一対のブームd及びマストを本体装置(ボード部)aに回転及び起伏可能に連結するゴム・ジョイントkを備えており、各部材は同説明書三の1ないし3に記載する作動態様を有するから、「前記風力推進手段が円柱、帆、一対のブーム及び同円柱を前記波乗り板に連結するユニバーサルジョイントを備えていること。」という本件発明の構成要件(三)を備えている。

したがつて、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属する。

六 本件特許権の特許権者である原告ウインドサーフィン及び独占的実施権者である原告勝和機工は、原告勝和機工の製造にかかる、本件発明の実施品であるセイルボード(以下「原告製品」という。)を、「ウインドサーファー」という商標を付して、原告勝和機工の子会社である訴外株式会社ウインドサーフィンジャパンを通じ、その販売に努め、更に、長い時間と多大の費用及び労力をかけてボードセイリングスポーツの国内での紹介、普及に努めてきた。その結果、昭和五六年に至つて多くの愛好家を得ることになり、昭和五九年のロサンゼルスオリンピックの正式種目にまでなつたため、今日では国民多数がこのスポーツを楽しむに至つている。

被告は、昭和五八年七月から、原告ウインドサーフィンが本件特許権を有し、原告勝和機工が日本全域における独占的実施権を有すること及び右ボードセイリングスポーツ普及の経緯を知りながらその実施許諾を得ることなく無断でイ号物件を販売した。

七1 被告は、昭和五八年七月から昭和六一年五月三一日までの間に、少なくともイ号物件を二一〇〇艇販売した。

2 原告勝和機工は、右被告のイ号物件販売により、イ号物件の販売数量と同等の数量の原告製品の販売機会を失つた。原告勝和機工が販売機会を失つた原告製品の正味販売価格総額は、金三億〇〇八二万円を下らず、原告勝和機工が原告製品販売により取得し得る利益率はその正味販売価格の二五パーセントであるから、その損害額は少なく見積もつても金七五二〇万円を下らない。

3 原告ウインドサーフィンは、原告勝和機工に対し、本件特許権の独占的実施権を許諾したことによる対価として、原告製品の正味販売価格の六パーセントに相当するロイヤリティーを請求し得る権利を有している。原告ウインドサーフィンは、被告のイ号物件販売により、原告勝和機工による原告製品の販売量が少なくとも販売数量にして二一〇〇艇、正味販売価格にして金三億〇〇八二万円減少したため、右金額の六パーセントに相当する金一八〇四万円のロイヤリティー収入を失つた。

4 原告ウインドサーフィンの右損害賠償請求権は、原告勝和機工の前記2の損害賠償請求権のうちの同額部分についての請求権と不真正連帯債権の関係に立つ。

八 よつて右損害金の内金請求として、原告らは、被告に対し、金一八〇万円(ただし、原告らの不真正連帯債権として。)、原告勝和機工は、被告に対し、金五七〇万円及びこれらに対する不法行為の後である昭和六二年一一月一六日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

別紙物件目録

別紙図面およびイ号物件説明書に示すとおりの「風力推進波乗り装置(セイリングボード)」

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別紙イ号物件説明書

一 別紙図面の説明

(一) 第Ⅰ図は風力推進波乗り装置(セイリングボード)の側面図である。

(二) 各図の符号は、それぞれ、次のとおりイ号物件の各部材を示す。

本体装置(ボード部)…a

セイル…b

マスト…c

ブーム…d

ウィンドウ…e

切欠…g

マストスリーブ…h

ブームジョーアウト…i

ブームジョーイン…j

ゴム・ジョイント…k

フットストラップ…l

テイル…m

ダガボード…n

スケグ…o

二 構造

1 波乗り板を形成する本体装置(ボード部)aの下面後方にはスケグoが装着されている。

2 本体装置(ボード部)aにはゴム・ジョイントkの下端部が結合され、ゴム・ジョイントkの上部にはマストcの下端部が嵌合されている。

3 マストcには、ウインドウeを有するセイルbの一辺のマストスリーブ(筒状部)hが嵌装され、セイルbの両側には二本のブームdが配設され、二本のブームdはマスト側(イン側)およびセイル端側(アウト側)の所定の位置でブームジョーインjおよびブームジョーアウトiによって連結され、ブーム部のイン側はマストcに、アウト側はセイル先端部に固定されている。

三 作動態様

1 本体装置(ボード部)a上には使用者不在で、風力推進手段が旋回防止力を失ない、水上に浮遊している状態から始まる。この状態においては、ゴム・ジョイントkは、その中間部分が屈曲し、ゴム・ジョイントkに嵌合されたマストcとマストcに装着されたセイルbは、水面上に倒れている。

2 使用者は本体装置(ボード部)a上の所定の位置に立つてマストcを引き起こし、セイルbの片側に配設されたブームdを両手で握つて、マストcに装着されたセイルbの位置を制御する。

3 使用者は両手で握つたブームdを押し、引き、回転させて風向に対し、セイルbを所望の位置に制御し、セイルbに必要な風力を受け入れてボードを望ましい方向に進行させる。この場合、セイルbの装着されたマストcと嵌合するゴム・ジョイントkは、使用者が操作するブームdの動きに応じ、ゴム・ジョイントkの軸線を中心として回転運動をし、また、前後左右の方向に所定の角度で屈曲し、傾斜する。

4 本体装置(ボード部)aの下面に装着されたスケグoは水中にあつてボードの直進性を保持している。

5 使用者はウィンドウeを通して、反対側の状況を知ることができる。

6 操縦中に、突然の強風が襲つた場合など、転覆の危険が発生したときは、使用者はブームdから両手を放し、セイルbを風下に倒れさせて風力を回避する。

別紙訂正明細書 <省略>

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